板橋区教育委員会 中川修一教育長インタビュー①
2019年初夏、板橋区教育委員会・教育長・中川修一氏にお話を伺ってきました。ユース・レジリエンス研究所を設立して以来、活動の中心になっているのが板橋区の小学校です。
今、なぜヨガをベースに考案された「ユース・レジリエンス体操」を教育の現場に導入されたのか? これからの社会、そして子供たち、教育のあり方について伺っていきます。変化の激しい時代。それは大人だけでなく、子供たち、そして子供たちを取り巻く社会にも多くの影響を与えていそうです。
聞き手
平賀きょう子
一般社団法人ユースレジリエンス研究所 代表理事 平賀きょう子
一般社団法人ユースレジリエンス研究所 代表理事 平賀きょう子
平賀きょう子(以下:平賀):今日はお忙しい中、お時間をとって頂き、ありがとうございます。昨年から何校かの小学校に伺わせて頂く中で、何かもっとお役に立てることがあるのかな? と思い、今日はお話を伺えたらと思っています。
中川修一教育長(以下:中川):こちらこそ、いつも精力的に活動して頂いていて、ありがとうございます。今、授業の中で新しく始めることが多くて、すべての学校での導入は難しいのですが、いくつかの学校で昨年からスタートしていますね。
平賀:はい。天津かわしお学校を始め、弥生小学校や板橋区フレンドセンターにも伺わせて頂いています。
中川:とにかく、学校教育は、ここ数年の間にどんどん変わっていて。授業で新しく始めることが、非常に多いんです。なので、すべての学校に導入するのは難しいのですが「この学校はやってみたらどうかな?」と思ったところに、まず声をかけてみたんですね。
平賀:今、伺っている学校は校長先生も先生方も前向きに取り組んでくださっています。先生方も子供たちと一緒にヨガをやってくださる時間もあって。この2年を通して、雰囲気が変わってきたな、というのを感じることも増えてきました。
中川:そうですか。それは良かった。私は校長先生がその学校にあった特色を、それぞれ出してくれたらいいな、と思うんですね。ですから、ヨガ学習に興味がある校長先生や、この学校でやったらどうかな? と感じた学校から広がってくれたら嬉しいです。ヨガをやることが目的ではなくて、ヨガを通して心身共にリラックスできる状態に子どもたちや先生方がなれたらと願います。
平賀:そうですね。最初に始まったのが、集団生活をしながら学校に通う、病弱特別支援学校の「天津かわしお学校」でした。
中川:そうそう。天津かわしお学校で行われていた周年行事でヨガをしている子供たちの様子を拝見したのが始まりでしたね。あの表情をみたら、いいなーって思いますよ。
平賀:みんな、ワクワクして、楽しく動いてくれるから、こちらも元気をもらっています。
中川:天津かわしお学校は、喘息とか、肥満とか、偏食だとか、なかなか学校に行けないとか、様々な条件がある子たちが、多く通っている学校なんです。そういった子どもたちが、ヨガをやっている姿を見たら、とっても楽しそうで。あの「できたよ、みてみて!」っていうオーラに、正直驚きました。
平賀:そうなんです。みんな「みて! できたよ!」って。
中川:私自身、ヨガは瞑想のように一人でやるイメージを持っていたのですが、2~3人でひとつの空間を創っているのを見て、これはいいなあと思ったのがきっかけでした。心を落ち着かせるだけではなくて、みんなで協力しながら、ひとつのポーズをつくって。
平賀:はい。ヨガはいろんなことができますから。
そのあとすぐに、私のスタジオに中川教育長さんも体験に来てくださいましたね。
中川:そうです、そうです。自分も体験してみて、これはいいな、と体感できました。気持ちが「すっとなる」。これは、子供たちも体験してみたらいいな、と。もしかしたら、必要としている子供たちがいるかもしれないって思ったんです。
こればっかりは見えないんですけれども、大人だけじゃなく、子供たちもいろいろ心の内側であると思うんです。いじめとか、不登校とか、いろんな心のモヤモヤってものが。ヨガは、それをクリアにしていけるんじゃないかな? と感じたんですね。
平賀:子供たちは、聞いて欲しい、みて欲しいときがありますよね。でも、先生は全員の話を全部は聞けない。お母さんも忙しい……。それは、本当に分からないけれども、子供たちにもモヤモヤって、あるだろうな、と感じます。
中川:本当にそうなんです。先生が全員の悩みを聞いてあげるのは、現実的には不可能だから。だから、モヤモヤを自分の中で解消したり、自分で整えていける術があるっていうのが、とっても大事になってくるな、と思うし、きっと、その子にとって役に立つことがあると思うんです。
平賀:今、板橋区内の小学校や板橋区フレンドセンターにも伺わせてもらっていますが、特にこういった学校には紹介したい、という想いはあるんでしょうか?
中川:僕は、まずいろんなことを、それぞれの学校で試してもらいたいという想いがあります。特に、先生たちも一生懸命やっているけれども、なかなか明かりが見えない時は、いろんなものを試して、良い感触のものを残していって欲しい。学校ごとに違っていいし、ヨガをベースとした体操が合う学校があったら、続けてみて欲しいな、という気持ちでいます。なので、僕から「やってみたらどうかな?」って話をさせてもらった学校もあるし、校長先生同士の口コミで問い合わせを行っている学校もあると思うんです。
平賀:そうですね。やってみないと、分からないところはありますよね。
私たちも、まず先生方に体験してもらって、そこから「これは、子供たちにも良さそう」と思ってもらえたら、ヨガ学習の時間をとってもらえたら嬉しいです。時間は取れなくても、ユーチューブに上がっている動画を参考にしてもらって、授業に取り入れてもらえたら、それも嬉しいなと思って活動しています。
中川:ユーチューブにね、上げてくれていますね。
平賀:簡単なもので2分からできます。背伸びと腹式呼吸だけの動画も上がってるので、授業の前に2分だけとか、活用してもらえたら、本当に嬉しいです。先生方も、いろんな教科が増える中で負担も増えているでしょうから、必要な学校に届けられて、負担のないかたちで継続できるのがベストだな、と私たちも思っているんです。
中川:現場に行くと、授業に集中できなくなる時間帯ってあるんですよ、どうしても。そういう時に、背伸びをしたり、ぐっと身体を反らしてみたりすると、また子供たちの意識が授業に戻ってきます。大人も同じです。ヨガじゃなくても、ヨガ的なことで、そんなことが出来るんじゃないのかな、と思いますね。緊張感をリラックスさせて、モチベーションを高めていく。気持ちが落ちたときに、深呼吸をするだけでも、切り替わる感覚や体験もあるので、うまく取り入れていけたらよい学校も多いだろうと思っています。
平賀:本当にそうなんです。無理にヨガをやらなくても、まずは呼吸だけでもやってみてもらって、それだけでも十分な効果があると考えているんです。お金も、時間もかけずに。先生も一緒に、気持ちを一瞬、切り替えてもらえたら、クラスの全員が授業に集中出来るようになると思うんです。
(第一話終わり)